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日陰の本棚 LineUp

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2007年04月09日

【冷血】 カポーティ

カポーティの「冷血」をよみました。
すらすらすらと読みました。

クラッター一家を強殺した犯人2人の
犯行計画から実行、逃走、つかまって、死刑になるまでの過程に
彼らのおいたちや、家族との関係
刑事たちの捜査の動きや
一家とかかわりのある人々のストーリーがからみあい
ずっと低温度なトーンですすんでいきます。

どんなひどいことも
けっきょくわすれられていくんだなあ。
物語の最後にさしこむ透明で冷たい光。
なんにも救われていないけど
それでも太陽はのぼるし
それでも生きていくのですなあ。

2006年12月20日

【ロリータ】   ナボコフ著/若島正訳

友達がナボコフが大好きで。
名前は聞いたことあるけど読んだことなかったんです。
「ロリータ」。
タイトルはきいたことありますよね。
なんか、少女愛のはなしでしょ?
ロリコンの語源になったとかなんとか?
くらいのレベルだったんですが。

ついに読みましたぞ。
この11月に出たばかりの新訳「ロリータ」。
若島正という人の訳なのですが
めっちゃめちゃめちゃおもしろい。
はらはらどきどき、爆笑、激怒の連続。
こんなにぐるんぐるんふりまわしてくれるストーリーもない。

はあはあ大汗かきながら読み終えました。
そして、砂浜を走りながら
「ハンバートのバッカヤロー!」と叫びつつ大笑いしたい気分に。

ハンサムオヤジな作家・ハンバートが
下宿先のオーナーの娘・ロリータちゃんに
恋をしてしまうおはなし。
まあそのお年で純情ねえがんばってねえと
ハンバートにやや肩入れしながら読み始めたのですが。
純情な少年のこころを持ったオヤジの
切ない恋物語と勘違いしたあたしがバカでした。

読み進む内にハンバートにマジギレ。
やり口が完全に老練なオヤジ。
やり口がまったくもってキタナイ。
で、そんな手練手管の鬼のオヤジと互角にやり合う
ナチュラル・小悪魔ロリータちゃん。
この対決がすごい。
ゴジラVSメカゴジラか、
はたまた座頭一VS椿三十郎か

いろいろあってうまい具合にロリータちゃんの親族も死んで、
ついにハンバートはロリータちゃんと2人、
アメリカ縦断の旅に出るんですが。
ロリータちゃんの気をひきたいがために
各地で観光名所をめぐるんだけど
彼女はそんなものにぜんぜん興味ナシ。
だってティーンな女の子だもん。
ニキビヅラの男の子やジャンキーな食べ物に興味津々なんだもん。
ロリータちゃんを必死につなぎとめようとするハンバート。
そのスレチガイにちょっぴり同情。
でも、つれなくされてもどんな手を使っても執着するオヤジに
怒りをとおりこして、恐怖。

このオヤジ、ラストでとんでもないことをやらかすんですが、
もうここまでくるとスタンディング・オベーションです。

ロード・ノベル+ミステリー+ラブストーリー+コメディなどなど
いろんな要素がぐちゃっとびったり組み合わさった傑作。
お正月にぜひぜひ。
「東京タワー」もぶっちぎりです。

2006年06月19日

【闇の左手】   ル・グィン

雪と氷に閉ざされた惑星・ゲセン。
人類同盟が派遣したゲンリー・アイの使命は
この星と外交を開くこと。
ちがう星、ちがう気候、ちがう文明、ちがう言葉、ちがう種族。
とほうもなくはてしなく異なる文化を前に
ゲンリーの交渉はまったくもってゆきずまってしまう。
「グロテスクな怪物どもとなぜ同盟を結ばなければ
いけないのか」とゲセン国王。

両性具有のゲセン人にとって
生涯男であるゲンリー・アイは異星人であり奇形者。
怪物なのだ。

さらに、ゲセン国王との交渉を
取り持ってくれたゲセン大統領エストラーベンが
叛逆の罪で王国を負われることに。

交渉決裂の緊迫した場面からこの物語は始まる。

光は暗闇の左手
暗闇は光の右手
二つはひとつ、生と死と、
ともに横たわり、
さながらにケメルの伴侶、
さながらに合わせし双手、
さながらに因-果のごと。

品格のある、重厚華麗な文体で描かれる
異なる星の異なる文化の異なる種族との
交流の顛末。

ラストはかなしく、あたたかいです。

のちの彼女の作品『ゲド戦記』にも通じます。
まったく相反するモノが出会うとき
なにがおこるのか。

2006年02月14日

【ゲド戦記】ル・グゥイン

ものごころついたころから、
ゲドシリーズって、目にしてましたよね。
小学校の図書館に必ずはいってますな。
本屋さんの児童書のコーナーにもかならずありますわな。
中学校、高校、大学の図書館にもあるし。
でも、なぜか手にとったためしがない。
なんでか。
地味な表紙や雰囲気のせいでしょうか。
ナルニアや指輪やはてしない物語やその他の華々しいファンタジーの
陰にかくれていたからでしょうか。
「戦記」とついてるくらいやから、
戦いの話ばっかでつまらんのちゃうか と
勝手に思ってたからかな。

ハヤオの息子さんが映画化するし、
まあこんな機会でもないとアレやし読んでみますかと
軽いきもちだったのですが。
この年末年始ゲド戦記6冊を読み終え
わたくしみぶるいしました。
こんな凄い本を、手にとらず読まずに一生を終えるところでした。
ぎりぎりセーフ!

アースシー(EARTHSEA)という世界でのおはなし。

アースシーに存在するものは全て「真の名前」を持っている。
例えば「石(イシ)」は仮の名前。隠された太古の「真の名前」が存在する。
動物も、人も、植物も、鉱物も。あらゆるものに。

そのモノの「真の名前」を知り、「真の名前」を呼ぶことで、
そのモノを完全に支配できる。
そのモノに対して魔法の力を発揮できる。

アースシーに住む魔法使い達は、あらゆるモノの「真の名前」を知ること、
つきとめることに情熱をかたむけ、
自らの学問や、人びとの生活に役立てている。

しかし、「真の名前」を誤って使うと
世界の均衡がくずれてしまう。

そして、少年ゲドが登場するわけです。

魔法使いとしてぐんぐん成長していくゲド。
ほかの魔法使いに負けまいとする
嫉妬やねたみやおごりや弱さにさいなまれるゲドは、
禁じられた魔法を使い、誤って
死の国から「影」を呼び出してしまう。

そして、ゲドはみずからが呼び出してしまった「影」に
昼夜追われ、逃げまどうことになる。

「影」の「真の名前」を見つけ、呼ばないかぎり、
ゲドに勝ち目はないのです。

影から逃げ、影と向き合い、影を追いかけ
そしてついに、影の「真の名前」を見つけるまで。
これが第1巻「影との戦い」のあらすじです。

「ことばは沈黙に 
光は闇に 
生は死の中にこそあるものなれ 
飛翔せるタカの 
虚空にこそ輝ける如くに」

読み終えてどきどきしっぱなしでした。

いまだいじなことがいま目の前に書かれてあるのに、
つかめそうでつかめーん
どーしよー!  
 ってなおろおろどきどき感でしたな。

もっかい読み返そうと思っています。

みなさんもぜひに!
Tシャツ1枚買うお金で、
生涯に何回かしかない、大切な出逢いの1つに
であってください。

お金なければ図書館で!


2005年11月08日

【チョコレート アンンダーグラウンド】 アレックス シアラー著

小さい頃、明治のマーブルチョコ狂いでした。
赤やら緑やら青やら黄色やらに
色付きの砂糖でコーティングされたチョコで、
一粒づつ口に入れ、砂糖の部分だけなめて溶かし、
そのあとでチョコ部分をゆっくりなめなめするのです。
一粒で5分くらいあまあい幸せを味わえます。

アウトローかつデカダンを気取りたいときは、
筒状の容器を口にあてて一気に流し込みます。
口の中いっぱいになったマーブルチョコを
ぐわしぐわしと噛みしめるそばから爆発する甘さに酩酊。
そそけだつ高揚感と身の程知らずめという自戒と
もう容器の中には一粒のマーブルチョコも残っていない
のね、、、ばかなアタシという悲しみがごっちゃになり、
ああ、至福のひとときよ!

最近のヒットはコンビニで売ってる
小さな袋入りの「キノコの山」(105円)。
これは便利。
箱だと会社であけるには目立つし
量はそんなにいらないし。
夕方の頭がぼんやりする時間帯に
ちょこっとつまんでエネルギー補給できるんですな。

有名パティシエの高級チョコがはやってますが、
もちろんおいしいのだろうけど、
明治やロッテのチョコと、どうちがうんでしょうね。
食べ比べて味の違いがそんなに出るもんなんでしょかね。
コアラのマーチは相当うまいですよ。

で、そんな大好きな大好きなチョコレートが
この世の中からなくなったら!!!!????

「本日5時以降、チョコレートを禁止する」
え?! チョコ禁止!?

選挙で政権を獲得した健全健康党。
独裁政権が発布した「チョコレート禁止法」によって
国中から甘いものが処分され、
こっそり所持したり食べたりした者は
大人子供にかかわらず次々に逮捕され、
お菓子嫌いに洗脳されてゆく。

チョコ好き少年スマッジャーとハントリーは立ち上がった。
お菓子屋のおばさんや古本屋のおじさんの
協力を得て、チョコレートを密造密売するのだ。
暗躍する健康党とその手先の目をかいくぐり、
自由と正義とチョコレートを守るために!

絶望も悲しみも
一切れのチョコレートがなぐさめてくれる。
一口の甘さが元気をくれる。

チョコレートで革命を起こす少年たちの冒険物語です。

映画化ですねこれは。

2005年11月01日

群像劇はよし

登場人物がたくさんでてくる物語が
わりかし好きなんです。
それぞれのキャラクターが個性的で
ひとりひとりの物語があり、仲間同士の群像劇がある
そんなお話が。

最初にオモチロイと思ったのは「三銃士」。
猪突猛進なダルタニヤン
ダンディーで洒落モノのアラミス
クールな頭脳派アトス
豪快でひょうきんなポルトス
の計4人

うーん、たまらんですなこの設定。
彼ら4人の冒険に、
フランス王室やら陰謀やら悪女やらが
からんでまたまたたまらん。
わたしも近衛銃士隊に入隊したいと本気で思ってました。

でもって最近だとやはり「指輪物語」。
勇気あるホビット族のフロド
フロドを支えるサム、ピピン、メリー。
荒れ野のさすらい人、実は王様のアラゴルン。
美しいエルフ族の弓の名手レゴラス。
執政の息子の豪傑ボロミア。
ドワーフ族の頑固者ギムリ
魔法使いガンダルフ
計9人。
うーん。これまたたまらん。
この9人が、世界を滅ぼす力を持つ指輪を
捨てに行く話なんですが、
ここに悲恋やら背信やら裏切りやら父子の争いやら
勇気やら奇跡やらがまじりあいすさまじくたまらん!


でもって、「南総里見八犬伝」は8人。
新選組は30人以上。
水滸伝は108人....。
サイボーグ009は9人。

主人公1人が、主人公なのではなく、
ある章では主人公を支える従者が中心に話が進んだり、
ある章では対立組織のボスの過去があきらかにされたり、
ある章では脇役同士の恋愛にスポットがあたったり。

そんな、みんなに物語があるお話に、
ひかれますなあ。

2005年10月31日

サイボーグ009で泣け!

石ノ森章太郎のライフワーク的存在。
ベトナム戦争、東西ドイツ、冷戦、世界大戦、貧困、環境破壊を
背景に描かれる、サイボーグたちと「悪」との闘いです。
重くて熱い。そして壮大なストーリーが展開します。
戦争兵器として開発された9人の葛藤のドラマです。

9人全員苦労人。強いけど弱い。格好いい。
中学の時に出会って、はまりました。
聞いたことあるけどしらんなあ、という方。
今すぐ出会ってください。
ブラックジャックと出会った時くらいの感動がやってきます。
                 ●
死産の状態で生まれる。
脳外科医の権威である父の手で脳改造手術。
超能力児に。
父とともにBGへ。
001  イワン・ウイスキー(国籍:ロシア)
                 ●
イタリア系移民の労働者の息子。
ダウンタウンの不良グループのリーダー。
いざこざにまきこまれ、相手を刺してしまう。
BGに連れ去られる。
002   ジェット・リンク(国籍:アメリカ)
                 ●
バレエでプロを目指し
留学を決意した直後、BGに連れ去られる。
003 フランソワーズ・アルヌール(国籍:フランス)
                 ●
共産主義の東ドイツから自由をもとめて西ドイツへ。
車で検問を突破しようとし発砲される。
最愛の恋人を殺され、自らも重傷。
BGに連れ去られる。
004  アルベルト・ハインリヒ(国籍:ドイツ)
                 ●
 ネイティブアメリカン。
政府の保護政策の名のもとで誇りと自由を奪われる。
甘んじて運命に従う仲間と故郷を捨て
街で労働者に。
BGに連れ去られる。
005  ジェロニモ・ジュニア(国籍:北米)
                 ●
中華料理店を経営。
順風満帆な生活が、一転破産に。
莫大な負債を抱え、後が無い状態で
BGに拾われる。
006  張々湖(国籍:中国)
                 ●
ロンドンの小劇場出身の役者。
大俳優に認められロンドンアカデミーの
檜舞台を踏むが、
仲間や恋人を裏切った負い目から酒に。
一文無しのアルコール中毒状態で
BGに拾われる。
007  グレート・ブリテン(国籍:イギリス)
                 ●
独立解放運動の闘士。
活動中に罠にはまり
仲間を全滅させてしまう。
茫然自失の状態でBGに拾われる。
008  ピュンマ(国籍:アフリカ)
                 ●
出生後間もなく教会に預けられる。
神父が殺害され濡れ衣を被せられる。
家庭裁判所に送致途中、脱走。
BGに連れ去られる。
009  島村ジョー(国籍:日本)
                 ●
アイザック・ギルモア博士
BGでサイボーグ開発に携わっていた科学者。
潤沢な資金と研究環境につられBGに入ったが、
その活動方針に疑問を感じ、自ら手がけた9人の
サイボーグとともに収容所を脱出
反旗をひるがえす。
                 ●
世界の破滅を画策する死の商人
BG(ブラックゴースト)。
戦争兵器としてサイボーグ戦士開発を画策。
その試作品として改造され、
世界を滅ぼす兵器として
サイボーグとなった9人の戦士。
                 ●

2005年10月25日

どんどん並行して読書中

ひきつづき並行読書増殖中です。
必死です。

よりによって「南総里見八犬伝」が
新たに加わりました。
本気で読もうとすると12巻あります。

.....そんなに長い話でしたっけ?
薬師丸ヒロコと真田裕之がいちゃいちゃして
ただけじゃ...?

お姫さんが犬と結婚して8つの玉を生んで
その玉を持つ運命の8人剣士が悪と戦う。
という筋はいたってシンプル。

が。
そこに、
出生の秘密やら敵討ちやらオソロシイ継母や継父やら勘違いやら化け物やら権力争いやら怨霊やらロマンスやらがこれでもかと絡み合いシェークスピアも真っ青のおっそろしいエンターテインメント巨編になっておるのでございます。
はあ。

オーランド・ブルーム女装似合いそうだし毛野ちゃんよねえ。
ジョニーデップはチョイワル男なかんじで道節かしらあ。
とちょっとでも面白く読めるように妄想読書中。


12巻も原文で読めないので上下巻にまとめた現代語訳本を購入。(弱!)
それでも読めなかった場合にそなえ
碧也ぴんくの漫画本「八犬伝」を購入。(弱弱!)
がんばります。
(偶然にも年末だか年始だかにテレビドラマやるそうですね)

あと、太宰治の「女生徒」は昨日読了。
こりゃええ!
いまどきの女子中学生のブログのぞいてるみたいです。
秒単位でころころうつりかわるちっちゃい女のコの気持ちが、
コロコロしたタッチで描かれます。
むさ苦しい太宰先生にオンナノコが乗り移ったか!?

2005年10月13日

いろいろ並行して読書中

ここ数日
仕事で読まないといけん本と
趣味で読んでる本が
乱立しております。

「ファンタージエン 秘密の図書館 」
Mエンデの「はてしない物語」のつづき本。
エンデの信奉者である作家さんたちが
書きついでいくようです。
今回はラルフ・イーザウが書いてる。
バスチアンがいじめっ子から逃げて飛び込んだ
古本屋さんの主人が主人公。
「はてしない物語」がどうやって古本屋に運ばれてきたのか
がつづられます。
古本屋さんの若い頃のはらはらどきどき奮戦記。
おもしろでした。ちょいラブもありで。
が。エンデさんに書いてほしかった。やっぱし。
中身がずんと深くなるはず。
イタコに読んでもらって自動書記か。やっぱし。

「ねずみの騎士デスペローの物語」
人間のお姫様に恋したハツカネズミのはなし。
きれいごとだらけのロマンチックな話でなし。
お姫様にもハツカネズミにもドブネズミにも下ばたらきの娘にも
それぞれに悲しみや憎しみや痛みや憧れがあって。
みんな幸せになりたいだけなんだ。それだけなんだ。
でも、それが相手を不幸にしてしまうこともあるんだ。
にくしみは、にくんだ自分にもかえってくるんだ。
うう。
ほろにがでした。おもしろでした。
つづき書いてくれないかなあ。

「春の雪」
三島本はちょこちょこ手を出していましたが、
映画化されるというので、手を出しました。4部作の第1巻。
純白の死装束のような
しゅっときらきらした描写はさすが。
主人公のおぼっちゃまの精神構造が理解にくるしみます。
まだ途中。

「晩年」
太宰治本。これから読みます。
自殺を前提に遺書のつもりで書かれた作品集らしい。
15の短編で構成されています。
太宰本は「お伽草紙」を読んだきり
なので楽しみ。
結局自殺してしまうんです。

「山彦乙女」
周五郎本。
ゆいいつ、彼のふるさと山梨が舞台の
怪奇幻想ロマン(とあらすじに)。
周五郎はちいさいころ、
おじいさんおばあさんを山津波で亡くしていたり、
そのほか家のいろんな事情があり、
山梨にはいい思い出がなかったようです。
でも、やっぱし書いてましたね。ふるさと舞台物。
これもこれから読みます。


2005年09月29日

「まっしぐらの花  中川幸夫」

中川幸夫。
いけ花作家。
このあいだ、
宮城県立美術館での展覧会に行ってきました。

仰天。
自分のなかの生け花のイメージが
こわれました。
ハアハアしっぱなしで
見終わった後、どっと汗が。

血がふきこぼれるように、
どくどくと赤い花液をほとばしらせる
カーネーション

花びらが落ち、雄蕊と雌蕊だけになった
ユーモラスなチューリップ星人

弥生時代に作られた須恵器に
大輪の蓮が狂い咲く

千の赤い実がつぶつぶつぶつぶ器からふきこぼれる

中川氏の生き様と、活けざま、埋けざまに
ふれることのできる1冊です。

彼の作品集が、「求龍堂」という美術出版から
出ております。装幀からデザインから色から
中川さんがこだわりにこだわりぬいて
究極の印刷技術を駆使して生まれたものだそうです。
初期の物は絶版。
最寄りの図書館に所蔵してれば
かならず見てください。
ほんとに見なさいよ。
彼を知った喜びにうちふるえたいならば。

中川君はめざす花材にめぐり会うと、
その花材をつかむやいなや、
その花材をとことんまで、
ギューと最後の線まで追求してやまないのだ。
そうして中川君の独特の花は生まれる、
何人も真似する事のできぬ花が生まれる。
一人の天才の映発する才能のその姿なのだ
------------------土門拳

沈黙と哄笑。「花」という通年を打破る、動力学。
ユーモアによって形容される自然。
中川幸夫氏の花は、ひとつの決意であり、
それはまた、無限の世界を包む容器なのだ。
この花は、すべてに先駆けて咲く。
------------------武満徹

江戸以後、生け花界は昭和の戦後に到って、
ようやく二人の天才を得た。
一人は勅使河原蒼風で、
もう一人は中川幸夫である。
蒼風はいわゆる前衛生け花で、
しばしば生け花の範ちゅうを超える
旺盛な制作力を発揮して、
芸術を事業としてみせた。
幸夫は全くその反対に
生け花を非現実化してみせたのである。
------------------早坂暁

私はいつも何万、何十万の薔薇が、
中川幸夫氏の手によって空に飾られ、
落下する瞬間を見たいと願っている。
天空の薔薇こそが氏には相応しい。
------------------柳美里

中川さんの公式ホームページ
http://kyuryudo.co.jp/yukio-nakagawa/jpn/index.html

2005年09月14日

【日本怪奇小説傑作集1】

長くて暗い秋の夜。
ベランダでふかした煙草の煙。
みるみるふわりとひとがたに。

おやまあ執念深いこと。
あたしを恨むんならお門違い。
甲斐性無しの己を恨むんだねえ。

くるくると手首に巻きつく煙を
ふうっ とひとふき。
紅い唇がつりあがる。

秋の幽霊も悪かあないね。

収録作品+++++わたしの怖い度★
小泉八雲「茶碗の中」★
泉鏡花「海異記」★★
夏目漱石「蛇」★★★★★★★★★★
森鴎外「蛇」★★★★★
村山槐多「悪魔の舌」★★★★★
谷崎潤一郎「人面疽」★★
大泉黒石「黄夫人の手」★★
芥川龍之介「妙な話」★★★★★
内田百間「盡頭子」★★★★★★★★★★
田中貢太郎「蟇の血」★★
室生犀星「後の日の童子」★★★★★★★★★★
岡本綺堂「木曾の旅人」
江戸川乱歩「鏡地獄」★★★★★
大佛次郎「銀簪」★★★★★★★★★★
川端康成「慰霊歌」★★
夢野久作「難船小僧」★★
佐藤春夫「化物屋敷」★★

どれも怖いが
夏目漱石、大佛次郎が
ぶるっときましてございます。

2005年08月30日

【このささやかな眠り】マイケル・ナーヴァ

こころにしみる上質なミステリ。

ヘンリー・リオス。33歳。
ヒスパニック、ゲイ、アルコール依存症。

アメリカ社会で差別され続ける
マイノリティーに属しながら、
弁護士という地位ではエリート側に立つ
痩せぎすの、黒髪の男。

人生の太陽の季節は過ぎ去り、
喪失感を抱えながら
仕事に没頭する日々。
静かにたぎる青臭い情熱と怒りを、
捨てきれずに
両手ににぎりしめたまま。

麻薬所持で逮捕された
麻薬中毒の若者、
大財閥の御曹司の弁護人となったリオス。

祖父が僕を殺そうとしている。
僕の相続権を無効にするために。
僕を助けて欲しい。
祖父から、そして麻薬から。

若者とのささやかな交情は
季節が秋にうつるころ
終わりを迎えた。
歩道橋の近くの川で、
溺死体となって。

死因は麻薬だと断定し、
捜査を終了する警察。
厄介払いができたと
冷酷に切り捨てる一族。

透明な秋の光のなか
愛する者を失った深い悲しみを胸に
手がかりを追って動き始めるリオス。

「ぼくの求めていたのは正義なのではなくて、
ただ、ヒューへの悲しみのはけ口だったのかもしれない」

一族同士の確執、黒い金、祖父への激しい憎悪。
そして
殺人者の手はリオスにも忍び寄っていた__。

最高のゲイ文学に与えられる
ラムダ・ブック・アワードの
ベスト・ゲイ・ミステリ部門に選ばれた
シリーズ第一弾。

作者のマイケル・ナーヴァは
リオスと同じヒスパニック。
スタンフォード大学のロースクールに入学し
ロス検察庁に入り、本業のかたわら小説を書き始める。
法曹界を知り尽くした作者の面目躍如。
法廷での駆け引きはドキドキもの。
リオスの弁舌にくらくら。

でも、どこかあきらめている
でも、あきらめきれない
リオスの生き様にほれます。
静かに燃える男って、素敵。

4作目まで翻訳済み。
映画化するとしたら誰がいいかなあ。
痩せた、目にうっすらクマのある
黒髪の男。
虚無と情熱とを瞳に宿す男。
だれかぴったりの役者さんいませんか?

2005年08月24日

【白の闇】   ジョゼ・サラマーゴ

とうとう。わたくし。
大傑作品にであってしまいました。

ありふれたいつもの朝。
交差点でひとりの男が突然
失明した。

まっ白なミルク色の視界がひろがる。
白い闇。

男を家まで送り届けた男が失明した男を送り届けた警官が失明した男の妻が失明した目医者にかけこんだ男を診察した医師が失明 した待合室で待っていた少年と老人と受付嬢が失明した原因不明のまま人々は感染し広がっていった政府は失明した人々を精神病院に隔離した何百人もの失明した人々で精神病院はあふれかえった。

精神病院に夫婦で収容された目医者の妻が、
医者の耳元でそっと告げた。
「わたし、目が見えるの」

夫について行くために
失明といつわった妻。

そして、彼女が見たものは。

劣悪な環境。わずかな食料。
秩序は崩壊し、理性はくずれ去り、
人間の本性だけがむきだしになってゆく。
悪臭と、汚濁と血にまみれた日々。

感染は、国中に広がり。
そして。
人々は。

「人間が理性の使用法を見失ったとき、
たがいに持つべき尊重の念を失ったとき、
なにが起こるかを見たのだ。
それはこの世界が実際に味わっている悲劇なのだ」

ジョゼ・サラマーゴはポルトガルの作家。
1998年ノーベル文学賞受賞。

衝撃です。

2005年08月19日

【ペスト】   カミュ

ひ...
たひた...
ひたひたひたひたひたひたひたひたひた
気がついたら。
まうしろに。いたんです。

最初は、だれも気にもとめなかったんです。
朝、家を出てマンションの階段を降りている時。
階段の隅に鼠の死骸が、いっぴき。
どうせ管理人が掃除してくれるだろう。
鼠って久しぶりにみるなあ。
通りに出た瞬間に、忘れていました。

翌日、また新しい死骸が踊り場にいっぴき。
鼠捕りでもしかけてるのかなあ。

わたしも、管理人も、市内のだれも、
気にもとめていませんでした。

それが、まうしろに、たっていたというのに。

そして、ある日。町は。
隔離されました。

住人は町から出ることを禁止されました。
たまたま町を訪れていたビジネスマンや
旅行者たちも同様でした。

孤立した町のなかで、
次々にペストにおかされてゆく人々。

医師、新聞記者、犯罪者、神父、喘息病みの老人。
まったく理由のない、理不尽な死が、
絶望的な死が、町を覆いつくすなかで、
それでも闘いをいどむ人々。
             
                   ●
解説によると、「対ナチス闘争での体験を
寓意的に書き込み圧倒的共感を呼んだ長編」

まさに、圧巻の作品。
ペストはいろんなモノに読み替えられます。
=戦争、死、悪、人間を蝕むあらゆるモノ


今年前半に読んだ本のなか
でも、ナンバーワンな作品。

ホラーとしても
サスペンスとしても
第一級です。


2005年08月04日

【妖怪暦  平成十七年度版】

妖怪馬鹿はいまにはじまったことではありません。
物心ついたときから妖怪馬鹿でした。
                  ●
小学校の学級文庫には、
ズッコケ探偵シリーズから世界の少年少女文学から
学校の怪談まで
いろんな本がそろっていたのですが、
わたくしはあきもせず「妖怪大百科」を
眺めておりました。
                  ●               
この世に思いを残し、恨んだり怒ったり悲しんだり
してひゅーどろと出てくる幽霊は、目がいっちゃってるし
言葉つうじなさそうだしオソロシクてだいきらい。

でも妖怪は大好きなのでした。
                  ●

「妖怪大百科」は、大百科と銘打っているとおり、
日本と世界の妖怪のパートに分かれて紹介されています。

右のページにある妖怪の属性が紹介され、
(名前、性格、身体的特徴、出没場所 云々)
左ページにその妖怪の解剖図を掲載。
全身をタテにスッパり割って、内臓の様子がことこまかに
描写されているのです。
コーフンしました。
だって。
解剖図があるということは=
捕まえられて解剖された=
本当にいる
わけですからね。

河童やら鎌いたちやらぬっへっほうやら
火車やら牛女やら濡れ女やら猩々やら言い出すときりないですが。

悪さをしたりとり憑いたりすることも多々ありますが
どことなく、どことなあく。
わたくしにとっては親しみが持てる存在なのですねえ。
                  ●
で、今年のスケジュール帳として購入したのが
その名も『妖怪暦』(角川書店)

漆黒の表紙に朱塗りで 妖怪暦 
開く前からぞくぞくしてきますねえ。

1週間ごとに欄でくぎられ、メモスペースも
ゆったりとられた使いやすい体裁。
でも。
よおっく見てください。
たとえば私の誕生日の8月22日の欄の隅に
〈十八度踊り(よっかぶい)〉と記されている。
巻頭にもうけられた「妖怪祭礼暦」の項で調べてみると
〈シュロの皮をかぶった大ガラッパが奇声をあげて子供
たちを追い回す水難除けの行事〉とある。

おわかりですね。
月ごとに、日本全国で行われている祭礼のうち、
妖怪に関する行事が、この手帖には網羅されているのです。
どうです。
どんなもんです。妖怪馬鹿必携。
こころわくわくおどる手帖でしょうが。
                  ●
付録として
妖怪用語事典
妖怪探索心得集
妖怪関係史年表
旧国名地図
西暦元号歴代天皇対照表
などなど、お役立ちの資料も付いている。
                  ●
妖怪馬鹿必携。
そうでないひとも、ぜひご一読あれ。

2005年07月13日

【泥棒日記】勝手に夏休みの課題図書指定

ある作家の自伝。
若き日の
盗みと放浪の日々をつづった日記であります。

彼の名は、ジャン・ジュネ。

1910年パリ生まれ。
父はわからず。
子育て放棄した娼婦の母に捨てられ
生後7ヶ月で生活保護局へ。
その後、職人の家に養子にだされ
学校では成績トップだったのに、
養父母の元を離れて職業訓練校へ。
で、10日で脱走。
盗みを働き、15歳で少年院へ。
で、脱走。
勧奨金目当てに軍隊へ入隊。
で、脱走。

男娼や窃盗をなりわいにしつつ、
偽パスポートでヨーロッパ中を放浪。
逮捕→出獄→また逮捕→出獄→
またまた逮捕→出獄.....の繰り返し。
そんな獄中生活の中でジュネは文章を書きはじめます。

てゆーかジュネさん!
あんた30過ぎまでずうっと泥棒&放浪生活やん!

「悪」に向かったきっかけは、
ほっぱらかされた両親や、のけものにした社会に対する反抗?
にしては、「泥棒日記」に悲壮感は全くないし....

「泥棒をした動機は、まず第一に食べるため」
と彼はいいます。
「社会に対する反抗心や怨嗟、憤懣それに類する
感情からではない」と彼はいいます。

食べるためのお金が必要なら、働けばいいのでは....?

いいえ。彼にとって泥棒は、男娼することは
単にメシの種だけではなかったようです。

「英雄的な冒険を探し求めていたのではなく、
最も美しい、最も不幸な犯罪者たちとの
同一化を追い求めていた」

恋に落ちちゃったんですね。彼は。
10代の頃、少年院で。
「おまえは泥棒だ」と宣言された瞬間から。

汗と垢とシラミと精液と臭気にまみれた、
ごみための、汚濁まみれの、悪の世界に。
恋を。

罪を犯すのが好きな異常者
というのではありません。

人は、幼いころから
「善」と「悪」があることを教えられますよね。
「善」をすると、大人からほめられる。
「善」=きもちいいこと。はればれすること。
すがすがしいこと。うきうきすること。
となる。

ふつうの人が、「善」で感じる感覚が、
ジュネにとっては、たまたま、
「悪」で感じる時の感覚だった。
のではないかなと。
思うわけです。

「善」=自分や、世の中にとってきもちいいこと
「悪」=自分や、世の中にとってきもちのよくないこと
だとしてみましょう。

世間一般常識ではそうでも、
(この常識ってうヤツがくせものですが)
ジュネにとっては
「善」=きもちのよくないこと
「悪」=きもちいいこと
だったのではないかと思うわけです。

ジュネの孤独な魂が、ゆいいつ
のびのびと呼吸できる場所。
同化することで、孤独がやわらぐ場所。
それが「悪」だったのではないかと。

これはですね、いっぺん読んでみてください。
夏の課題図書に指定します!
自分のたっている地面が、
ぐるりん!
とひっくりかえることうけあい。

(余談)文中に出てくる、ジュネの想い人
泥棒稼業のスティリターノが、むちゃくちゃ格好いい!
映像化の際は、ぜったいヴィゴ・モーテンセンです。

2005年06月28日

【芋虫】    江戸川乱歩

ある軍人が、戦争で両手両足を失い帰ってくる。
彼は世間的には立派な英雄として迎えられ、
美しく貞淑な妻は献身的に世話をする。
が、それは世間の目に映る表面上の姿。
         ●
手足がなく話すことも聴くこともできず、
視覚と触覚だけで生きているニクノカタマリ。
彼女の助けが無ければ生きられない肉塊。
ふたつの涼しくつぶらな目ばかりが、
じっと彼女を見つめています。
貞淑な妻は、異形の夫との関わりの中で
自分のこころの闇を知ることになります。
それは吐き気がするほど恐ろしく、
吐き気がするほど刺激的なものでした。
         ●
異常な食欲・性欲を示す肉塊。
三度の食事と献身的な世話のおかげで
栄養が行きとどき、てらてらあぶらぎった皮膚。
まあるくぽこりとふくらんだ腹。
手足のあったあたりには、小さな突起が生え。
それを支点にコマのようにくるくるくるくるうごくのです。
そんな肉塊を眺めているうちに身の内にわき上がる
荒々しくむずがゆい気持ちの昂ぶりのまま
妻は夫を責めさいなみ、
次の瞬間、許しを請うて涙をながし接吻を雨とふらせる。
あまりの激しさに夫が息をつけずに苦しみだすと、
ふたたび、むずむずと嗜虐のきもちがわきあがり、
夫の唇を責めつづける。
そんな時、妻は頭がぼうっとなるほどの快楽を感じるのでした。
          ●
嫌悪しながら、とりこになる。
なんとなく、わかります?
奇怪な虫に陵辱されつつ
組み敷かれた自分の姿を想像して興奮する。

愛しているけど、傷つけたい。
なんとなく、わかります?
愛する人の耳たぶを甘噛みしているとき、
ふいにかみちぎりたくなる。
ああ。なんか。歯茎がわきわきしてきたなあ。

          ●
ある日妻は、残虐と興奮の入りまじった
酩酊状態のなかで、発作的に、
夫のふたつの目を
指で。
          ●
果てのない快楽と苦痛にわきたつ前半とは
一転して
後半は、哀しみにあふれています。切なくなります。
          ●
目をつぶされ、もはや人間ではなくなったニクノカタマリ。
〈永遠の静止であり、不断の沈黙であり、果てしなき暗闇〉
にいるあわれな肉塊。

自分のしでかしてしまった罪におののき、
必死で看病する妻。
ゆるしてゆるしてと涙をながし、
ゆるしてゆるしてと肉塊の胸に指文字をかく。
          ●
そして。肉塊が最期にとった行動は。
そして、妻は。

純愛です。

2005年06月23日

【シラノ・ド・ベルジュラック】

ものごころついた時から騎士の出てくるお話が大好きでした。
「ダルタニヤン物語」「紅はこべ」「アーサー王物語」
「指輪物語」その他もろもろ。
学校の図書館でわくわくどきどき読んだものです。
もちろん今も大好き。

騎士物語に出てくる騎士のどこにひかれるのか。
1.冒険するところ。
2.愛する人に無償の愛をささげるところ。
3.愛する人や、愛する人の名誉を守るためにたたかうところ。
4.剣に誓って行動するところ。
5.剣だけではなく、繊細なこころをもっているところ。
6.名剣、愛馬、鎖帷子、マント、指輪、愛する人からもらった手紙、
酒、その他もろもろ出てくるアイテムがすてき。

で、そんな騎士物語の中でもいちばん好きなのが
「シラノ・ド・ベルジュラック」です。

本気とかいて、マジとよむ。
で、本気で恋しておるのですシラノに。
恋というか、むしろシラノになりたい。
小学生の頃からの思い人ですな。

100人まとめてかかってきても、
あっというまにたたきふせる
その名も高きガスコン青年隊一番の剣豪。
一番の剣豪にして一流の詩人。
その言葉の無尽蔵さは天下一。
その毒舌も天下無双。
剣のお相手つかまつりながら、即興で詩を吟じ、
男どもを感嘆させ、ご婦人方をうっとりさせる。

こんな素敵なお方なら、
女性はだれだっていちころなのですが。
なのですが。

かれには、ひとつの、
おおきなコンプレックスが。

そう。鼻が。巨大。

いいじゃん!でかくったって!
あんたには超一流の剣の腕前と
ご婦人の心をとろかす言葉の力があるじゃん!

でも、シラノにとって、剣より、詩よりも、
こころにおもーくのしかかっているわけです。
巨大な鼻が。

従妹のロクサアヌへの隠し秘めたる恋ごころ。
でも、ロクサアヌにとってシラノは
心から尊敬し慕うよき兄、よき相談相手。
突然告げられるロクサアヌからの恋の悩み。
ある夜劇場で出会った美青年騎士クリスチャンに
一目惚れをしたと!
ひどいショックを受けつつ、かなわぬ恋に苦しみつつ、
愛するロクサアヌのために、二人の恋路をとりもシラノ。

クリスチャンに頼まれてロクサアヌへの手紙を代筆 しながら
(こいつ、顔と剣の腕は良いのに、詩心のかけらもナシ、純情バカ男)
その文面に自分の思いを込めるシラノ。
うつくしく、せつなく、情熱的な文章に、
ますますクリスチャンに夢中になるロクサアヌ。

そして、シラノは戦場へ赴くことになり...。

このつづきはぜひ、図書館、もしくは本屋さんで。
もしくはツタヤのレンタルビデオコーナーで。
主演のジェラール・ドパルデューの名演に拍手!

ほれます。

2005年04月18日

トーベ・ヤンソン   【ムーミン谷の仲間たち】その2

ムーミン谷には、スナフキンやちびのミイやおしゃまさんなど
強烈な脇役キャラが登場しますが、
彼らの立ち位置の、ずうっとずうっとうしろのうしろで、
黒い豆粒くらいの ・ にしか見えないくらいの場所で、
ちょこちょこ走ってるヤツがいるんです。
走り回っては転んだり、隠れたり、じっと動かなくなったり、
いったいその無秩序な動きはなんですか。
赤面しながらこっちに向かって走ってくるなと思ったら、
顔を手でおおってあっちにかけ去ってゆくし。
声をかけようにも遠すぎるし、でも、なんだか気になるし、
向こうもこっちが気になっているようだし。仲間にくわわりたそうなのに。
近づいてこないし。叫んでも声は届きそうにないし。どうしたもんかな。
そんなキャラが、「はい虫ちゃん」です。
めちゃめちゃ恥ずかしがり屋のオクテなのに、思いこんだら命がけ。
盲目的情熱的な大胆さもあわせもつキャラクターです。
(しばしば見当違いの方向に突進しがちなんですが)

つづく

2005年04月15日

トーベ・ヤンソン   【ムーミン谷の仲間たち】その1

よくいるひと。
アパレルの男。なんであんなにいきがってるのか。
同系色のスーツ上下。ぴかぴかに光りすぎな茶色の革靴。
ちょっと短めにあつらえたパンツのすそからのぞく派手な赤色の靴下。
短髪。えりたて。ボタン上から2つ開け。眼鏡。ひげ。
なんなんですかあんた。そのむやみに長い足は。
スーパーバイヤーってやつ?俺のセレクトにピープルがついてくる?
なんか、みんなそんなふうに考えているような。
そんな臭いがぷんぷんする。骨董通り近辺でよくみかけますな。
って、私は勝手に妄想してるだけだろうか。
私自身のひがみが原因か。ほんまはいい人なんか。
ほんまは、しゃべったら、腰のひくいいい人なんでしょうか。
ご飯まとめてたいて、一膳ぶんづつラップにくるんで冷凍庫に入れて
保存してたりするんでしょうか。水菜とジャコの炒め物がおかずで。
質素な生活してるんでしょうか。

まちびとをまちながら、どんどん妄想暴走半島。

で、私の待っていた相手は。
スーツにぴかぴかの茶靴とはかけはなれた
平成を完全無視した格好でやって来たんですね。
スパイラルビル1階のぴかぴかに磨き込まれたドアごしに。
くたくたの着流し。二本差し。手には小さなふろしき。
のび放題の髪を、うしろでひっつめ。
てぬぐいで汗をぬぐいながら。
困ったような笑顔ではげしく手をふっている。
ぎょっと見つめるスパイラル周辺のひとびと。

ちょっと1階のカフェでお茶でもしようかと思いましたが。
だめ。めだちすぎる。
腕をひっぱり、スパイラルから出ると、
二本差しの侍をタクシーにおしこんだわけです。
「えと、駒沢公園まで」
タクシーの運転手の、ぎょっとした顔を無視。
かの人は息をはずませながら、両腕を突き出し、
ふろしきづつみを突き出すんです。
「お、おにぎり、つくってきた」
「米あったの」
「1合だけ。もう家に食べるものないの」
「....そこまでしなくても」
「でも、は、はじめてのデートだしっ」
運転手がまたまたぎょっとする。
「わたしはさ、今日すごい楽しみにしてきたから。
もう、ほんとにきのうなんかねむれなくて、山ちゃんにあえるのほんとに
楽しみにしてたんだから」
「あの、落ち着け」
「ごごめん」
「で、なんでその格好なんだよ」
「着るものがなくって...。全部洗濯しちゃったから。山ちゃんとあうのに
きたないかっこできないでしょ。だから、稽古場行って
いちばんましなやつかりてきたの」
「いっちばんましなやつ...」
「いちばんましなやつだよ。これ。昔の普段着。武士の」
「むかしすぎるんだよ...なんで刀さしてんの」
「普段着でも外出するときはささなきゃ」
「武士はな」
「武士はね」

アヅマちゃんというんですね。
かけだしの劇団員です。
小さな劇団だけど、さいきん下北のスズナリで上演したようで。
アズマちゃんはまだまだ登場人物A。
劇場の前で、当日チケットを買うために並んでいるひとたちの
行列整理したりチラシ配ったりしています。
このアヅマちゃんが。すごく似てるんですね。
トーベ・ヤンソンに出てくるキャラクターに。
ちょこちょこっとした動きで。恥ずかしがり屋で。
思い詰めがちで。情熱的で。
とっても似てるんですね。(その2につづく)

2005年03月19日

日陰の本棚 【岡本太郎    歓喜】

「おめえにはな、色気ってもんがねえんだよ」
「はあ」
「いっぺん抱いてやるか」
「両手をついて遠慮します」
「ばか。冗談だよ。抱き心地わるそうだろおめえ。
世の中女と男しかいねえんだからさ、
いろいろ勉強してみろ。色気のある書き方や見せ方ってもんが
ちったあできるようになるだろうよ」
「たしかにないですねえ。色気。かたっくるしい文章しか書いてない」
「ひとっかけらもねえな」
「どうすりゃいいですか」
「だから抱いてやろうかって」
「惚れてんですか」
「ボランティアだ。金はとるぜ」
「とりあえず、ひとりで頑張ってみます」
「おめえにはぎらぎらがたりねえんだよ。情熱がさ」
「たしかに」
「ぜったいやってやるっていう情熱がみえねえんだよ」
「はあ」
「なんでもいいからとことん惚れてみろ。
惚れ抜けるもんを探してみろ。どきどきするエネルギーを感じてみろ
ふくれあがる喜びを感じてみろ」
「よし。やってみます」
「とりあえず今夜やってみるか。俺のベッドで」
「こころからご辞退いたします」

そしていまだ惚れ抜けるものを追い求めている最中。
がらっぱちな先輩が進めてくれたのが
岡本太郎でした。
あまりに強すぎて、あまりに熱すぎる。
そして、あまりに愛おしすぎる。
そんな言葉のかずかず。
惚れました。


素朴に、無邪気に、幼児のような眼をみはらなければ
世界はふくらまない。

懸けとおし、貫いて運命を生きる、そのために
つまらぬ目にあい、不条理に痛めつけられても、
それはむしろ嬉しい条件として笑って貫きとおす人間でありたい。
ふりかかてくる災いは、
あたかも恋人を抱き入れるように受ける。
人間のノーブレスだ。
逃げない、はればれと立ち向かう、それが私のモットーである。


参考/『岡本太郎   歓喜』(二玄社)

2005年03月17日

日陰の本棚【ムーミン谷の彗星】

アルマゲドンinムーミン谷。
彗星が地球に向かって、ムーミン谷に向かって近づいてくる。
水はひあがり、植物は枯れ、気温が上昇しはじめる。
ぎらぎら光る火の玉は、まっすぐ向かってくるために、
地上からは動かず止まっているように見える。
でも、ひごとにだんだんだんだん大きくなってゆく。

冷たく暗いなかに、ムーミンたちの明るさや無頓着さ、
無常感や思いやりがぎゅううっと混じり合い、
ぐつぐつ混沌となってくるはずが、
最期はなんともいえない透明感のただようおはなし。
トーベヤンソン最高。ほれた。

ムーミン:ハーレイ・ジョエル・オスメント
ムーミンパパ:ユアン・マクレガー
ムーミンママ:岸恵子
スナフキン:柳楽優弥
スニフ:スティーブ・プシェーミ
スノーク:広川太一郎
スノークのおじょうさん:松たか子
じゃこうねずみ:イッセイ尾形
フレドリクソン:デイビッド・ウェンハム
ヨクサル:ジョニー・デップ
ミイ:オドレイ・トトゥ

2005年03月04日

日陰の本棚【詩集  絹半纏】

「田中、好きなもんいいな」
「じゃあ、これ」
「ったく、いちばん高ぇもん指さしやがって。山本は」
「えーと。じゃあ、これがいいです」
「二人とも先に店に行ってな。すぐに持って行ってやっから」
「はい」
「好きなもん注文して待ってろ」

「人間はな、教養がなくちゃいけねぇよ。お前らうんと勉強しろ」

「女は上品なのがいい。
上品な女が馬鹿やると、男はぐらっとくるね」

「田中、これで好きなもん買いな」
「商品券?すごいうれしい。ありがとうございます」
「そんなにうれしいかい」
「うれしいです」
「そうかい。もらいもんだよ。俺が商品券で買い物なんて出来ないからよ」
「さっそく明日、西武でおいしいパン買います。
お礼になんかしないと」
「じゃ、また飯くおう」
「はい」
「田中とそれ以上親密になるには、
商品券200枚くらいはかかるからな」
「意外に高くて安心しました」

「最近のグラビアは色気がまったくねえ。女も全然だめだ。
お前ら、カストリ雑誌ってしってるか。
今度、別冊太陽で特集しようと思ってんだけどさ。
紙も印刷もぼろぼろ。イラストも稚拙なんだよ。
でもさ、色気が匂いたってんだよ。
グラビアの女なんか、貫禄負けもいいとこだ。
今の雑誌は、あの勢いにはとうていかなわねえよ。
もっともっと、色気のあるものづくりをしねえとな」
              ●
古本屋で働く友人、田中さんを通じて、
百瀬氏とスープカレーを食べにいきました。
翌日、百瀬氏の買ってくれた1000円分のあられを
食べつつ再読しました。

百瀬博教。
彼が下獄して最初に出した処女詩集『絹半纏』。

〈思い出に節度のない僕〉が描く、
おびただしい短編映画。
読み進めるうちに、
百瀬氏の思い出から流れ出る、鮮やかな色が、
思い出に乏しい私の、乏しい思い出にも色を付けてくれました。

うわっつらの言葉で、
理解できない言葉で書かれる詩集とは対照的。
こころにすとんと入ってくる、めちゃめちゃわかりやすく、
かわいなつかしせつない詩集なのです。


参考/『絹半纏』(幻冬舎文庫)

2004年11月11日

日陰の本棚【悪徳の栄え】

「美徳」ってなんやろか。「悪徳」ってなんやろか。
今から200年以上もまえ、
そんなことをパリの牢獄の中で考えていた人がいました。
マルキ・ド・サド
1740年貴族の子としてパリに生まれる。
司法官の娘と結婚したあと、20代のとき精神異常の徴候が出はじめる。
女性を鞭で打とうとした罪で入獄。男色などの罪でも入獄。
いろんな事件をあちこちで起こして入獄。
40年近くを監禁されて過ごし獄中で多くの作品を書き上げる。
フランス革命の時にはバスティーユ監獄におり、
民衆蜂起のどさくさで解放。
1803年シャラントン精神病院に監禁され、1814年没。
最強に筋金入りのハングリーなおやっさんです。

さてみなさん。(浜村淳風)
みなさんも美徳と悪徳について考えてみましょう。
まずは辞書をひきましょう。
【美徳】その人の持っている性質と、
その人のした行いの中で、ほめられるべき点。
【悪徳】道徳に反した悪い行い。不正な行為。

うーん。どういうことでしょうね。
ある泥棒がいて、難攻不落のお城から宝石を盗み出す。
その行為に対して仲間の泥棒たちがほめそやす。
「ルッパーン!あなたってすごいわ!」「今回ばかりは脱帽だな」
「さすがでござる」。
ということは、この泥棒の行為は「美徳」?
「るぱーあああん!にがさんぞおおお!」
でもでも、追いかける刑事にとっては、泥棒の行為は「美徳」?

「よの顔を見忘れたか!」と見栄を切りながら
悪を退治する暴れん坊将軍。
敵をばったばったと退治していく将軍。
でも、悪徳代官の家来であるために、
暴れん坊将軍に切りかかっていかねばならず、
峰打ちされて大けがしてしまう
その他大勢の家来にとって暴れん坊の行為は「美徳」?

「美徳」、「悪徳」の定義ってのはとても不安定。
「美徳」も「悪徳」も、国家や社会、
個人の価値観で変わっていきます。

そもそも「美徳」って?「悪徳」ってなに?
誰が「美徳」と「悪徳」を定義したの?
ほんとにあなたのやってることって「美徳」なの?
「悪徳」って悪いことなの?やっちゃダメなことなの?

この「美徳」と「悪徳」について、
ジュリエットという娘っこが、身をもって体験し、
体をはって学習していく物語。
それがマルキ・ド・サドの「悪徳の栄え」でございます。
「悪徳」の権化みたいなひとがいっぱいいっぱい登場します。
ジュリエットが子供のような好奇心でもって、
そんなひとたちの話を素直に聞き、
自分が納得するまでしつこく質問し、
しっかり「悪徳」を自分のものにしていく過程は、
けなげの一言であります。

民衆の行動や考え方までも
均一化し管理しようとする道徳(体制・権力)に対し、
「道徳なんてくそっくらえ!
人間もっと自由にならんとあかん!解放されなあかん!」
とサドは言っております。
200年前にこのように主張し、
牢屋にぶち込まれてもぶち込まれても、
牢屋のなかで戦い続けた男。
そのエネルギーに、たじたじです。ひれふします。
ぜひ、ご一読を。

参考/「悪徳の栄え」(河出文庫)

2004年10月30日

日陰の本棚【月に吠える】

【ちら、ちら、ちら、ちら】

今年初めてふる雪の音?ローソクの灯のさきっぽのゆらぎ?
川の面に反射する月の光?着物のすそかに見えかくれするもの?
酸欠になってすわりこむ寸前に目の前にとびかう
蚊のごとき黒の点々?後ろ手に隠し持つガラスの破片の様?
気になるあのひとへなげかける視線?みっともなくうろうろ乱れるあなたのこころ?

詩人・萩原朔太郎は詩集「月に吠える」の中の
「くさつた蛤」でこう描きました。
(中略)
この蛤は非常に憔悴れてゐるのである。
みればぐにやぐにやした内蔵がくさりかかつて居るらしい、
それゆゑ哀しげな晩かたになると、
青ざめた海岸に座ってゐて、
ちら、ちら、ちら、ちらとくさつた息をするのですよ。

あさく、絶え絶えに息をつきながら、
ひっそりうずくまっている蛤が思い浮かびました。

私の習った中学の教科書に
「月に吠える_竹」という詩がのっていました。

「竹」
光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるへ。

かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。

国語の先生は「力強くて勇気の出てくる詩です」と解説していたように記憶します。
子供には、詩の前半部分の熱に浮かされたときに見える幻のような感覚は
理解できないと思ったのでしょうか。

朔太郎は明治生まれ。前橋の裕福なお医者の息子です。
大きな瞳の青白い美少年。病気がち。両親の溺愛。
何でも買いあたえてもらえる環境。
少年時代から与謝野晶子の短歌に傾倒し、雑誌への短歌の投稿も積極的。
音楽が好きでマンドリンを弾き、洋装をしてトルコ帽をかぶり、
フランスにあこがれるモダンボーイ。
しかし、
医者をつぐことを望まれるも、学業かんばしくなく、
受験に失敗、進級に失敗、退学etc...
親の仕送りの金をばらまきながら東京の雑踏をさまよう日々。
孤独で、宙ぶらりんで、焦燥にかられ、絶望し、やさしく抱かれる腕を求め、
熱にうかされたようにマンドリンを弾く。
自分が本当に何をしたいのか、つかめない状態がつづきます。

初めての詩集「月に吠える」を出版したのは、彼が31歳の時。
20代から30代の彼の思いがつまっています。
その序文にはこうあります。
「詩は病める魂の所有者と孤独者との寂しいなぐさめである」
詩を書くことで彼は慰められたのでしょうか。

自分のこころの中をぱっくり裂いて、ざらりとさらけだしたような詩ばかり。
たぶん、慰められなどしなかったろうと思います。
よけいに苦しくなったのではないかなと。

わたしも気持ちがぐちゃぐちゃになったとき、
ノートのはじに「おまえは最低だ」「臆病者」「卑怯者」などと
自分への気持ちを書きちらすことがあります。
書いているそばから文字が体中にべっとりと張りつき、
どんどん体温が下がっていくような感じがします。
あとで読み返してもぞっとします。
よけいに落ち込みます。

でも、朔太郎はさらけ出した。苦しみながらさらけだした。
さらけだされた自分を凝視するって、
とても恐ろしいことなのに。
でも、彼にはそれしかできない。
それができたからこそ、
「月に吠える」が生まれたのかなと思います。

結果的に「月に吠える」は、日本に口語自由詩を
(感じたこと思ったことをそのまま話し言葉でつづる)
確立することになりました。

あの大きな瞳でこころの底をじっと凝視し、繊毛の先までじっと凝視する。
月夜の晩に遠くの空で犬が鳴き、猫が鳴き、土の底から手や足がでしゃばり、
蛤はしおみづの中でくさっていく。
誰かと抱き合っていたいけれど、抱き合うための腕はだらりとたれ。
絶え絶えに、ひっそりと、ちら、ちら、ちら、ちらと
朔太郎は息をついているのです。

参考/「月に吠える_萩原朔太郎詩集」(角川文庫)

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